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奈良地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決

原告

真井浩

外四名

右五名訴訟代理人弁護士

峯田勝次

被告

香芝市

右代表者市長

瀬田道弘

右訴訟代理人弁護士

小寺一矢

小濱意三

主文

一  被告が、原告真井浩に対し、昭和六二年三月一九日付けで別紙物件目録一記載の土地を従前地とし、別紙物件目録一〇及び一一記載の土地を仮換地とする指定を取り消す。

二  被告が、原告野村禎則に対し、昭和六二年三月一九日付けで別紙物件目録二記載の土地を従前地とし、別紙物件目録一二及び一三記載の土地を仮換地とする指定を取り消す。

三  被告が、原告野村龍司に対し、昭和六二年三月一九日付けで別紙物件目録三記載の土地を従前地とし、別紙物件目録一四及び一五記載の土地を仮換地とする指定を取り消す。

四  被告が、原告池原太平に対し、昭和六二年三月一九日付けでした仮換地指定のうち、別紙物件目録八記載の土地を従前地とし、別紙物件目録一九記載の土地を仮換地とする指定及び別紙物件目録九記載の土地を従前地とし、別紙物件目録二〇及び二一記載の土地を仮換地とする指定をそれぞれ取り消す。

五  原告池原成和の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用中、原告池原成和と被告との間に生じたものは原告池原成和の負担とし、その余の原告らと被告との間に生じたものは被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  主文一ないし四項と同旨

二  被告が、原告池原成和に対し、昭和六二年三月一九日付けでした仮換地指定のうち、別紙物件目録四ないし六記載の土地を従前地とし、別紙物件目録一六記載の土地を仮換地とする指定及び別紙物件目録七記載の土地を従前地とし、別紙物件目録一七及び一八記載の土地を仮換地とする指定をそれぞれ取り消す。

第二  事案の概要

本件は、被告のした仮換地指定が照応の原則に反する等の違法があるとして、原告らがその取消しを求めた事案である。

【争いのない事実】

一  当事者

被告は、大和都市計画事業五位堂駅前北土地区画整理事業(昭和四六年一二月二八日決定・告示、以下「本件事業」という)の施行者であり、原告らは、右事業の施行地区内所在の別紙物件目録一ないし九記載の土地の所有者である。

二  本件事業計画(第二回変更後のもの、乙二五)

1 施行地区

(一) 位置

香芝市五位堂、瓦口の一部で、香芝市の東南に位置し、国道一六五号線と近畿日本鉄道株式会社(以下「近鉄」という)大阪線に挟まれた地区で、南に隣接して近鉄大阪線五位堂駅がある。

(二) 現況

(1) 地形及び土地利用状況

本件施行地区は、標高約五一メートルから五六メートルの平坦地で南から北へ緩やかに傾斜している。土地利用は、水田を主とする農地が半分強を占めており、近鉄五位堂駅周辺には商業・業務施設や医療施設、国道一六五号線沿いには工業施設が立地しているほか、地区全体にわたって住宅が点在している。

地区の住宅戸数は二九戸、地区内の人口は約一一六人であり、土地の利用状況は別表1「土地利用現況表」のとおりである。

(2) 都市計画

本件施行地区は、その大部分が商業地域及び近隣商業地域に指定され、国道一六五号線の北側及び葛下川の北西の一部が住居地域に指定されている。

(3) 道路、河川等

国道一六五号線(幅員八メートル)のほか東西道路二本(幅員三ないし4.5メートル、三ないし四メートル)、南北道路二本(幅員約2.5メートル、約三メートル)の四本の市道と数本の里道があるが、市道の一部と里道は未舗装である。

地区の北部を葛下川が蛇行しながら西に流れ、地区の西側を南から北へ流れる熊谷川と地区北部西側で合流している。河川、水路の大部分は未改修のまま放置されている。

(4) 地価の現況

被告は、本件施行地区の地価を一平方メートル当たり六万九七一〇円から二七万六四七〇円まで平均一五万六二九〇円と推定している。

2 設計の概要

(一) 目的

大阪市の通勤圏として無秩序な市街化が進行すると予測されるため、真美ケ丘幹線、五位堂駅北広場をはじめとする公共施設の設備改善により、宅地の利用増進と健全な市街地環境の育成を図る。

(二) 設計の方針

用途地域指定に準じ、真美ケ丘幹線及び五位堂駅北広場に面する地区を店舗商業地とし、その他は住宅地として計画する。土地利用計画は、別表2「土地利用計画表」のとおりである。

(三) 公共施設

(1) 道路

五位堂駅より北へ本件施行地区を縦貫する真美ケ丘幹線(幅員二八メートルないし36.5メートル)を設置し、主要区画道路(幅員12.9メートル)、区画整理道路等を適宜配置し、歩道、自転車専用道路を整備する。

(2) 広場、公園

五位堂駅北広場(面積約7500.04平方メートル、以下「駅北広場」という)、児童公園二箇所(約4523.86平方メートル)を設置する。

(3) 河川等

未改修のまま蛇行している葛下川につき計画ルートを設定し、現況河川と同面積の河川用地を確保して暫定断面で整備する。また、下田集落との間の改修完了まで三箇所の調整池を確保する。

(四) 土地区画整理施行前後の地積

土地区画整理施行前後の地積は、別表3「土地の種目別施行前後対照表」のとおりであり、平均減歩率は、別表4「減歩率計算表」のとおり約二七パーセントである。

3 施行期間

昭和六一年三月三日から平成七年三月三一日まで

三  本件仮換地指定

被告は、昭和六一年三月一九日付けで別紙図面一の従前地の所有者に対して別紙図面二のとおり仮換地指定をした。原告らに対する仮換地指定(このうち原告らの請求に係わる仮換地指定を、以下「本件仮換地指定」という)に関する従前地と仮換地との地積、権利指数、減歩率は別表5ないし9の「換地設計書」のとおりである。

なお、本件仮換地指定をするに際し、換地計画は定められておらず、本件の仮換地を本換地とすることが予定されている。

四  審査請求等

原告らは、本件仮換地指定が違法であるとして、昭和六二年五月一八日、奈良県知事に対し、審査請求をしたが、平成三年四月二四日付けでいずれも棄却され(乙二〇の1ないし5)、さらに、建設大臣に対し、同年五月二四日付けで再審査請求をしたが、平成四年四月二七日付けでいずれも棄却された(乙二一の1ないし5)。

【争点】

被告は、次のとおり、本件仮換地指定は照応の原則に合致している等と主張している。それに対し、原告は、本件仮換地指定が、①照応の原則に違反すること、②換地予定地的な仮換地であるのに換地計画を定めずに行っていること、③換地設計基準に合致しないこと、をその違法事由として主張している。

《被告の主張》

一 本件仮換地指定は換地計画を定めていないが、そのことで違法となるものではない。

二 照応の原則は、従前地及び仮換地の位置、地積、土質、水利、利用状況及び環境等の各要素を個別的に取り上げて判断するものではなく、各要素の全てを一体とした上で総合的に判断されるべきものである。したがって、指定した仮換地とその従前地とが社会的に見て大体同一であれば、照応しているということができる。この場合、仮換地と従前地の経済的価値の合致は極めて重要な判断要素となる。ただし、経済的価値が合致していても、仮換地と従前地とが位置、地積、利用状況等に関し極端に異なっていれば、照応しているとはいえないが、本件では、経済的価値は合致しており、その他考慮すべき個別的要素の著しい不均衡もない。

また、合理的な根拠なしに、近隣の権利者と比較して不利益な扱いをしてはならないことも、照応原則の内容というべきであるが、本件ではこのような不合理・不平等な扱いはしていない。

三 第一回本件事業計画変更時までに、右事業計画につき池原俊治を除く権利者全員からの了解を得ることができたが、池原俊治の了解を得ることはできなかった。池原俊治は本件施行地区内に約一万三〇〇〇平方メートル(区域内の全面積の約八パーセント)の土地を所有し、特に瓦口一二七ないし一二九及び一三二の土地(合計約五一一二平方メートル)に石垣を擁した建築物を所有している者で、右建築物を移転するとなるとその費用として十数億円かかると推定された。そこで、土地区画整理審議会(土地区画整理法(以下「法」と略称する)五六条)に諮問した上、右土地を原位置に仮換地指定をし、同人の他の所有地を減歩分として処理することとした(法九五条一項七号、法施行令五八条六項一号)。そして、右減歩分とされた土地については、将来、池原俊治と紛争が生じる可能性が極めて高いと予想されたため、同土地については香芝市土地開発公社に仮換地指定をした。したがって、池原俊治及び香芝市土地開発公社に対する仮換地指定と原告らに対する仮換地指定とが公平を欠くとの主張は理由がない。

四 本件各仮換地指定について

1 原告真井浩(以下「原告真井」という)、同野村禎則(以下「原告禎則」という)及び同野村龍司(以下「原告龍司」という)に対する仮換地指定について

(一) 位置

駅北広場として約七五〇〇平方メートルの土地を配置し、仮換地の指定により駅北広場に面することとなる土地の面積の合計は約6350.52平方メートルである。したがって、右付近の者の全てを駅北広場に面する位置に仮換地指定することは不可能である。そして、右原告三名の権利指数は七〇万六四八二と過少で、同人らを駅北広場に面した位置に仮換地指定をすると間口がもっと狭い土地しか割り当てることができない。このような点を考慮し、土地の有効利用を図るため位置を定めたものであるから、何ら違法な点はない。

なお、右原告三名は香芝市土地開発公社が二三街区三ないし五の仮換地指定を受けていることをもって不公平であると主張しているが、右土地は従前池原俊治の土地(瓦口六三)で、前記のとおり右公社に仮換地指定をすることには合理的な理由がある。また、瀧井政太郎所有の従前地瓦口五〇に対して三〇街区二八画地を仮換地(減歩率51.68パーセント)しているのは、同人が右従前地で酒屋を営業しており、その点を考慮して駅前広場に仮換地指定をしたのであり、不公平な点はない。

(二) 形状

右原告三名は、本件各仮換地の形状が換地設計基準第九(整理後の画地の形状は、長方形を標準とし、その間口長は、整理前の画地の利用状況及び整理後の画地の土地利用を勘案して定める)に合致しないと主張する。

しかし、右三名は、同一使用の申し出、すなわち、各人の一筆の土地につき個々に仮換地を定めると間口が狭小になって不適当であるため、グループを設けて一体として利用・処分ができる形状で仮換地することに同意をしており、右三名の共同使用であれば、当該仮換地の間口は一一メートル(原告真井及び同禎則各四メートル、同龍司三メートル)あるから、その利用価値が少ないとはいえず、右原告三名の主張は、本件仮換地指定の違法事由となるものではない。

(三) なお、本件事業が公正かつ円滑に行われることを目的として昭和五六年に土地区画整理協議会が設置されているところ、原告真井は右協議会の委員であり、協議会において自身が事業による換地を見越して土地を取得していたことから、速やかな事業の遂行を希望し、幹線に面していなくてもよい旨の意見を述べていた。

2 原告池原成和(以下「原告成和」という)について

(一) 瓦口一五〇―六、一五二―三、一五四―二について

(1) 従前地の権利指数の合計は一六万八九一四個であるため、幹線道路に面した位置を仮換地指定すると間口が狭く奥行きが長い土地しか割り当てることができず、土地利用の増進をはかる観点から本件仮換地をしたもので何ら違法な点はない。

なお、右各従前地とバスロータリーとの間にはフェンスがあり、右各従前地がバスロータリーに面しているとはいえない。

(2) 原告成和に対しては、他に瓦口二〇一について二〇―二街区一二画地を、瓦口二〇三―三の一部について二〇―二街区一一をそれぞれ仮換地指定しており、原告成和については二〇―二街区一一ないし一三の一箇所に仮換地指定をして土地の利用価値を増進しているから、この点でも照応の原則に反しない。

(3) 原告成和と被告との間に幹線道路に面した位置に仮換地指定をする旨の合意はない。右各土地と交換された香芝市鎌田南鈴山七五六―三の山林はもともと国道と川を挟んで面する位置にある崖地となった雑木林であって、土地評価は低く、被告が将来幹線道路に面した土地に換地する旨の約束をするはずがない。

(二) 瓦口二〇四―一について

(1) 右従前地の位置は、その一部が区画道路及び調整池の予定地とされており、原位置に仮換地をすることは不可能である。

(2) 右従前地は、河川に面して存在し、以前にはその一部が喪失していたのを昭和五八年ころ復元したものであり、もともと利用価値の低い土地である。

(3) 本件事業における換地計画では、仮換地である二街区一画地と施行地区外との高低差は、現況の約八メートルから五メートルとなり、良好な宅地が造成されることとなる。

3 原告池原太平(以下「原告太平」という)について

(一) 瓦口五五―一について

(1) 土地評価及び減歩率について

右従前地はその進入路が約二メートルの未舗装道路(施行前街路係数図(乙四)R10、以下「R」は右図のRを示す)であり、しかも右道路の西端に接しているだけで、権利指数の評価の基礎となる路線価がもともと低い土地である。他方、秋山甚佐久(従前地瓦口四九―一所有)や池原秀寿(同瓦口四九―二所有)の従前地の路線価は最も評価の高いR8―2であり、この路線価の違いが原告太平に対する減歩率の違いとなったものである。したがって、何ら原告太平を不利に扱うものではなく、袋地として修正していることも違法ではない。また、瀧井政太郎(従前地瓦口五〇所有)、岡本徳治郎外一名(同瓦口五二―五所有)、小川勝治(同瓦口五三―三所有)の各従前地の進入路は評価指数の高いR9(路線価指数八四〇個)であるが、瓦口五五―一にR9を通じて進入することは困難であり、瓦口五五―一にはR10を経由して進入するほかないことから評価が異なったもので、右土地のみを特別に低く評価したものではない。

(2) 位置について

右従前地は五位堂駅乗降口に当たり、都市計画(昭和四六年一二月二八日香芝町告示第二五号)では駅北広場として予定されているから、原位置に仮換地指定をすることは不可能である。

三一街区三及び四を住宅都市整備公団に仮換地指定したのは、三一街区三及び四付近が近鉄大阪線に著しく接近していて、個人での利用は困難であったためであり、瀧井忠夫(従前地瓦口六一七―一所有)に対して三〇街区三一と三一街区一を仮換地指定したのは、同人から分割されてもよいから北部へ仮換地指定するようにとの希望があったため、その意向に沿って行ったもので、恣意的にしたものではない。

(二) 瓦口一四七について

(1) 位置について

原告太平から水田に仮換地指定するように希望があったのであるから、原位置に仮換地指定しなくても何ら違法ではない。

(2) 利用状況について

仮換地の一八街区五の面積は約二四三平方メートル、一八街区一三の面積は四七五平方メートルである。また、一八街区五の間口も約一一メートルあるから耕作をする上で何ら不都合はない。

五 黙示の同意

本件事業につき、昭和六一年には土地区画整理審議会が設置されている。

原告太平及び同禎則は右審議会の委員であり、被告は昭和六二年三月一四日に右審議会において換地予定図を委員に示して全体の立案を説明し、本件仮換地指定案につき全員一致の承諾を得ており、右両名は本件仮換地指定につき黙示の同意をしたものである。

《原告の主張》

一 本件仮換地指定は換地予定地的仮換地指定であるのに、換地計画が定められておらず、違法である。

二 照応の原則違反(原告真井、同禎則及び同龍司につき、換地設計基準違反の主張を含む)

本件仮換地指定は、以下に述べるような理由で照応の原則を満たさず、違法である。

1 原告真井、同禎則、同龍司に対する仮換地指定について

(一) 位置

原告真井、同禎則及び同龍司の従前地はいずれも整理後の三〇街区と駅北広場にまたがっているのに、右原告三名に対する仮換地は、別紙図面二のとおり、いずれも二八街区に仮換地指定をされていて近傍に仮換地をされていない。しかも、被告は、右三名とほぼ同様の位置に土地を有していた秋山甚佐久(従前地瓦口五一―一、四九―一)、池原秀寿(同瓦口四九―二)、岡本徳治郎他一名(同瓦口五二―五)、瀧井政太郎(同瓦口五〇)らに対して、駅北広場に面する二八街区に仮換地指定し、また、三〇街区から離れた土地を所有していた香芝市土地開発公社(同瓦口一一九、二二一)に対して、三〇街区の西側にある二三街区の土地に仮換地指定し、長谷川芳治(同瓦口五三―七及び八)、瀧井百太郎(同瓦口五三―六)、丸山ヨリコ(同瓦口五六―八)、高木孝祐(同瓦口五四―四)らに対して、三〇街区七ないし一四及び二八に仮換地指定している。したがって、被告は、位置の点で右原告三名のみを不利に取り扱っており、照応の原則に反する。

(二) 形状

被告は、原告真井、同禎則に対しては、間口約四メートル、奥行き約四六メートルの土地を、同龍司に対しては間口約三メートル、奥行き約四六メートルの土地をそれぞれ仮換地しており、形状の点でも照応しない。しかも、右仮換地の形状をみると、「整理後の画地の形状は、長方形を標準とし、その間口長は、整理前の画地の利用状況及び整理後の画地の土地利用を勘案して定める」とする換地設計基準第九に合致しない。

被告は、右三名が同一使用の申出をしたと主張しているが、右原告三名は駅北広場に面した土地に仮換地指定をされるのであれば、まとめて仮換地を指定されてもよい旨の申出はしたが、本件のように原位置から離れた位置にまとめて仮換地指定されることまで承諾していない。

(三) 減歩率について

減歩率は、原告真井が39.59パーセント、同禎則が39.61パーセント、同龍司が39.68パーセントであり、この点でも照応の原則に反する。

2 原告成和について

(一) 瓦口一五〇―六、同一五二―三、同一五四―二について

(1) 原告成和は、右土地を真美ケ丘土地区画整理事業での進入路用地の代替地として交換したものであるが、その際、被告との間で、右土地を幹線道路に面した土地に仮換地指定するという約束があったから、被告は右約束に従って幹線道路に面した位置に仮換地指定をするべきである。

(2) 位置

従前地の近傍に仮換地指定されておらず、この点でも違法である。また、右土地はバスロータリーに面していたのであるから、幹線道路に面した位置に仮換地指定をすべきである。

被告は香芝市土地開発公社に二〇―二街区八画地を仮換地指定し、また、右従前地よりも公共空間への接近度の少ない池原昇(従前地瓦口一四八)に対しても二〇―二街区五区画を仮換地指定しており、原告を不利益に扱っている。

(3) 土地評価について

右土地は、バスロータリーにフェンスがあるにしても、通路を通じて面していたのであるから、正面路線価としてR1―4を用い島地修正をすべきでない。

(二) 瓦口二〇四―一について

(1) 減歩率

右従前地に対して二街区一画地と三街区二画地が仮換地指定されており、減歩率が31.24パーセントとなり、地積の点で照応しない。

(2) 位置

二街区一への仮換地指定は位置が従前地から国道一六五号線を超えて仮換地指定をしており、利用関係の点でも不利益になる。

3 原告太平について

(一) 瓦口五五―一について

(1) 減歩率

右仮換地指定の減歩率は53.67パーセントにも及んでいる。

(2) 土地評価

本件事業に係る設計の概要の認可のあった昭和六一年二月二八日当時瓦口五五―一の南側と瓦口六〇七―一(中谷利雄所有地)との間には、幅員2.5メートル以上の一般交通の用に供していた道が存在し、また、瓦口五五―一と近鉄大阪線との間には幅員二メートルほどの道があって通学路として使用されていた。しかるに、被告はその点を無視して瓦口五五―一を袋地として評価している。しかも、被告は、瓦口五五―一が少なくとも一般道路の用に供されている道路に接することは認めているところ、ほとんど同位置にあり、しかも一般道路に面していない土地を所有している瀧井政太郎(従前地瓦口五〇所有)、岡本徳治郎外一名(同瓦口五二―五所有)、小川勝治(同瓦口五三―三所有)らの画地指数を瓦口五五―一のそれよりも高く評価している。

(3) したがって、面積、価格の点でも照応の原則に反する。

(二) 瓦口一四七について

(1) 環境、利用状況について

瓦口一四七は水田として利用されており、原告太平の希望により水田換地集合予定地である一八街区の五及び一三画地に仮換地指定されたものである。しかるに、右仮換地の南側はいずれも住宅地として予定されており、建築物が建築されて日照が妨害されることとなるから、環境、利用状況の点で照応しない。

(2) 土地評価及び減歩率について

瓦口一四七の正面路線価は2.7メートル道路(R3―2)を基準とし、その一平方メートル当たりの画地指数は約八二四とされている。ところで、葛下川を挟んでほぼ同位置にある瓦口一七九(福田一男所有)の正面路線価は国道一六五号線(R1―3)を基準としているため、その一平方メートル当たりの画地指数は八六五とされている。そして、右のような土地評価がされているため、瓦口一四七に対する仮換地指定の減歩率は約30.66パーセントと農地として利用継続する者にとってはかなりの負担となっているのに対し、瓦口一七九に対する仮換地指定(一八街区三及び一五画地を指定)は減歩率が約9.5パーセントとなっている。

右のように瓦口一四七と瓦口一七九で減歩率が異なるのは、仮換地指定された土地の一平方メートル当たりの画地指数が同じであるから、従前地の正面路線価を国道一六五号線としたか否かによる。しかし、瓦口一七九は全くの袋地で畦道しかなく国道に接していないのに、瓦口一四七は右土地とほぼ同位置でしかも幅員2.7メートルの道路に接しており、土地評価についても不合理である。

(3) 以上のとおり、本件仮換地については、地積の点で照応の原則に反するから、違法というほかない。

第三  争点に対する判断

一  換地計画を定めることの要否について

法九八条一項前段所定の土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のために必要がある場合には、換地予定地的仮換地指定をするときでも、換地計画に基づくことを要しないと解するのが相当であるから、本件仮換地指定において換地計画が定められていなくても、これを違法ということはできない。

二  照応の原則違反について

1 法は、「仮換地をする場合、仮換地及び従前地の宅地の位置、地積、土質水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」(法九八条二項、八九条一項)としており、「照応する」とは、従前地と仮換地とが、通常人がみて大体同一条件にあると認められるものでなければならないこと(いわゆる縦の照応)、同一事業の施行地区内における他の権利者との公平が保たれていること(いわゆる横の照応)をいうと解される。

2 本件のように、土地利用関係の状況を、水田を中心とする農地が半分以上を占めている状況から、五位堂駅北広場及び真美ケ丘線に面する地区を店舗商業地とし、その他の地区を住宅地として変貌させるいわゆる新開発型土地区画整理の場合においては、仮換地指定の基準として、権利者が土地を使用していない限り、土地の位置、形状、面積等に比して仮換地及び従前地の価格が重要な要素となる。もっとも、土地区画整理後の価格は事柄の性質上、事後的な予測とならざるを得ず、また、法の規定の趣旨からして経済的な価値が照応すれば地積、形状等を無視するということはできない。権利者が従前地を使用収益している場合には、権利者が仮換地に同意した場合を除き、その位置、地積、形状等は従前の土地利用形態を維持する上で極めて重大な問題であるから、宅地の価格のみを仮換地指定の基準とすることはできず、位置、地積、形状、利用状況等も十分に考慮すべきである。永続的な土地所有者にとって重要なことは土地の交換価値ではなくその利用価値であると考えられるから、土地を使用収益している権利者に対する仮換地において減歩率の割合が高い場合、土地区画整理による仮換地に特別の便益が認められることが必要である。建設省作成の「土地区画整理設計標準」(甲二二、昭和八年七月二〇日、発都第一五号各地方長官・各都市計画地方委員委員長あて内務次官通達、昭和四一年三月三一日建設省発第一二七号改正)第二の一イが「道路、水路、小公園及小学校ノ敷地二依ル民有地ノ減歩率ハ二五『パーセント』以内ヲ以テ目途トスルコト従テ民有地ノ減歩率ヲ過大ナラシムル事情アルモノニ付テハ特ニ設計ノ細部ニ付考慮スルコト」としているのも、右の趣旨を含むと解される。

3 従前地と仮換地の土地評価方法としては、事業の特質、目的等からいわゆる路線価方式が最も適切なものというべきであるが、路線価評価方式を実際の地区に適用する場合、それによって得られる宅地の相互的価格差が客観的に妥当性を有しているか否か、すなわち、①整理前又は整理後において、不動産鑑定評価額や固定資産評価額等他の土地価格に関する資料によって得られる価格のポイント毎の相対的格差と概ね近似しているか否か、②整理前後の価値の増進の程度が近傍の類似地区等と比較して概ね妥当なものであるか否か、また、その増進の程度は各筆間において著しく相互のバランスを失するものでないか、という点が検証されるべきである。

4  池原俊治を特別に扱う根拠について

被告は、池原俊治が本件施行地区内に約一万三〇〇〇平方メートル(区域内の全面積の約八パーセント)の土地を所有しており、特に瓦口一二七ないし一二九及び一三二の土地(合計約五一一二平方メートル)には石垣を擁した建築物を所有し、右建築物を移転するとなるとその費用として十数億円かかると推定されたので、土地区画整理審議会(法五六条)に諮問した上、右土地を原位置に仮換地指定し、同人の他の所有地を減歩分として処理し、右減歩分とされた土地については、将来、池原俊治と紛争が生じる可能性が極めて高いと予想されたため、同土地について香芝市土地開発公社に仮換地指定したものであるから、池原俊治及び香芝市土地開発公社に対する仮換地と原告らに対する仮換地指定とが公平を欠くことはないと主張している。

法九五条一項七号は、同項一号ないし六号のほか、特別の事情のある宅地で政令の定めるものに対しては、換地計画において、その位置、地積等に特別の考慮を払い、換地を定めることができるとしており、法施行令五八条六項は、建築物その他の工作物で、構造上移転若しくは除却の著しく困難なものの存する宅地等をこれに該当するものとして掲げている。

本件において、池原俊治の建築物の状況(証人梅田の供述、検甲一二、二二)からすると、被告が右建築物を構造上移転若しくは除却の著しく困難なものとしたことを直ちに合理性を欠くと断じることはできない。しかし、被告は右の移転費用の点について見積もりもしておらず(証人梅田第一一回口頭弁論供述一五丁裏)、その費用が右のとおりとなるかは不明である。そして、右建築物の移転・除却が著しく困難であるとしても、池原俊治との紛争を慮ってその減歩分とされた土地について香芝市土地開発公社に仮換地指定することは、合理性を欠くというほかはない。してみると、被告において、右公社を優遇した結果、権利者が照応の原則の点で不利益な取扱いを受けた場合には、それは止むを得ないものではなく、当該仮換地指定は違法になるというべきである。

三  以上の観点から本件仮換地指定について検討する。

1  原告真井、同禎則、同龍司に対する仮換地指定について

(一)  減歩率について

減歩率は、原告真井が39.59パーセント、同禎則が39.61パーセント、同龍司が39.68パーセントであり、右三名にかなりの負担を強いるものとなっている。

(二)  位置について

原告真井、同禎則、及び同龍司の従前地はいずれも整理後の三〇街区と駅北広場にまたがっているのに、右原告三名に対する仮換地は、別紙図面二のとおり、いずれも二八街区に仮換地指定をされていて近傍に仮換地をされていない。

(三)  形状について

原告真井、同禎則に対しては間口約四メートル、奥行き約四六メートルの土地を、同龍司に対しては間口約三メートル、奥行き約四六メートルの土地をそれぞれ仮換地しており、形状の点でも照応しない。しかも、右のように細長い土地への仮換地指定は、土地利用の点でも著しく不利益であり、「整理後の画地の形状は、長方形を標準とし、その間口長は、整理前の画地の利用状況及び整理後の画地の土地利用を勘案して定める」とする換地設計基準第九に合致しないことが明らかである。

被告は、右三名が同一使用の申出をしたと主張し、証人梅田は右三名は口頭で三〇街区か二八街区のどちらかにまとめて仮換地指定をしてもらいたい旨を述べたと供述している(第一二回口頭弁論供述一七丁裏ないし二〇丁表)。しかし、原告真井は、書面で駅前にまとめて仮換地指定をしてもらいたい旨の申請をしたと供述しており(同原告供述四丁)、証人梅田の供述のみで被告主張の事実を認めることは困難である。結局、右原告三名が、被告主張のように、同一使用の申し出、すなわち、グループを設けて一体として利用・処分できる形状で仮換地することに、無条件、又は、三〇街区か二八街区のどちらかにつき、同意したと認めることはできない。

(四)  被告は、原告真井が昭和五六年に土地区画整理協議会の委員であり、協議会において自身が事業による換地を見越して土地を取得していたことから幹線に面していなくてもよい旨の意見を述べていたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない上、右事実があっても、本件仮換地指定の違法が治癒されるものではない。また、原告禎則につき、被告主張の黙示の同意が認められないことは、後述のとおりである。

(五)  以上のとおり、他の権利者との横の照応の点を判断するまでもなく、右原告三名に対する仮換地指定は照応の原則に反し、違法というべきである。

2  原告成和に対する仮換地指定について

(一) 瓦口一五〇―六、一五二―三、一五四―二について

(1) 原告成和は、右土地を幹線道路に面した土地に仮換地指定するという被告との約束のもとに真美ケ丘土地区画整理事業での進入路用地の代替地として交換したものであるから、被告は右約束に従って幹線道路に面した位置に仮換地指定をするべきであると主張する。そして、原告太平は右主張に沿う供述をする(第一三回口頭弁論供述一一丁)。しかし、当該交換に係わる土地交換契約書(甲二三)にはその旨の記載はなく、原告太平の右供述によっては、原告成和主張の右事実を認めるに足りない。しかも、仮に右合意が存在したとしても、土地区画整理においては、前記のとおり権利者相互においても公平と認められるように仮換地指定することが要請されており、右合意があることをもって原告成和に対して特別の配慮をすることはできないから、当該合意により仮換地指定の行政処分自体が違法になることはないというべきである。

(2) 原告成和は右各従前地を代替地として取得したものでその有効利用をしておらず(原告太平の供述、検甲二二)、また、本件仮換地の減歩率が約22.19パーセントであることは当事者間に争いがない。また、原告成和に対しては他に瓦口二〇一に対して二〇―二街区一二画地を、瓦口二〇三―三の一部に対して二〇―二街区一一をそれぞれ仮換地指定しており、原告成和については二〇―二街区一一ないし一三と一箇所に仮換地指定をして土地の利用価値を増進している(争いのない事実三の別表8参照)。以上の点からすると、原告成和に対する仮換地指定は照応の原則に反しないというべきである。

(3) なお、右各従前地とバスロータリーとの間には、フェンスと段差がある(弁論の全趣旨)から、これがバスロータリーに面しているとはいえず、かつ、右各従前地は通路の奥まったところにあって、バスロータリーに出るには狭い通路を通じるほかない(検甲二二、乙四)ので、その評価につき島地修正した被告の措置が違法であるとはいえない。

(二) 瓦口二〇四―一について

(1) 本件仮換地により、従前地二〇四―一(551.51平方メートル)は、二街区一画地(約206.26)と三街区二画地(174.04平方メートル)に分割仮換地指定され、その減歩率が31.04パーセントとなる。

(2) しかし、従前地は山林で、河川に面して存在しており(甲二六、検甲二二)、そもそもの利用価値が必ずしも高いとはいい難いところ、仮換地は宅地として造成されるのであるから、土地の利用価値は増進することとなる。また、原告成和所有の瓦口二〇四―二が三街区三に仮換地指定されており、分割仮換地になるとはいえ、三街区二については土地の利用価値がより増進する。

(3) したがって、右仮換地指定については照応の原則に反するとはいえない。

3  原告太平に対する仮換地指定について

(一) 瓦口五五―一について

(1)  減歩率

証人梅田善久の供述(第一二回口頭弁論供述三丁裏)及び昭和六〇年一一月三日撮影の航空写真(検甲二二)によれば、原告太平は、右従前地を農地として使用していたことが認められるところ、右仮換地指定の減歩率は53.67パーセントにも及んでいる。

(2)  土地評価

前記航空写真(検甲二二)及び右写真をもとに作成された図面(甲一六)並びに原告太平の供述によれば、当時瓦口五五―一の南側と瓦口六〇七―一(中谷利雄所有地)との間には幅員約2.5メートルほどの道が存在し、また、瓦口五五―一と近鉄大阪線との間にも通勤・通学路があることが認められる。被告は、五五―一を袋地と評価しているが、この点については疑問があるといわなければならない。

前記のとおり、路線価評価方式を実際の地区に適用する場合、それによって得られる宅地の相互的価格差が客観的に妥当性を有しているか否か、相互のバランスを失するものでないか、という点が検証されるべきである。しかし、被告は、右土地とほとんど同位置にあり、しかも一般道路に面していない(被告も瓦口五五番地一が少なくとも一般道路の用に供されている道路に接することは認めている)瓦口五〇(瀧井政太郎所有)、五二―五、五三―三、を瓦口五五―一の画地指数を高く評価しており、土地評価の点ではたして近傍の土地の価格が相互にバランスがとれているか疑問といわざるを得ない。

(3)  位置について

本件仮換地は三〇街区三画地と原位置ではなく、離れた位置に仮換地指定がされている。しかし、被告は、従前地が原位置付近にない住宅都市整備公団に対して三一街区三及び四画地を仮換地指定しており、原告太平につき位置を離して仮換地指定する理由は見出し難い。

(4)  以上のとおり、本件仮換地は、地積、土地価格、位置のいずれの点でも照応の原則に反するから、違法というほかない。

(二) 瓦口一四七について

(1)  土地評価について

瓦口一四七の正面路線価は、幅員2.7メートルの道路(R3―2)を基準とし、その一平方メートル当たりの画地指数は約八二四とされており、葛下川を挟んでほぼ同位置にある瓦口一七九(福田一男所有)の正面路線価は、国道一六五号線(R1―3)を基準とし、その一平方メートル当たりの画地指数は八六五としていること、また、右のような土地評価がされているため、瓦口一四七に対する仮換地指定の減歩率は約30.66パーセントとなり、瓦口一七九に対する仮換地指定(一八街区三及び一五画地を指定)は減歩率が約9.5パーセントとなっていることは争いがない。

前記のとおり路線価評価方式を実際の地区に適用する場合、それによって得られる宅地の相互的価格差が客観的に妥当性を有しているか否か、相互のバランスを失するものではないか、という点が検証されるべきである。そして、右のように瓦口一四七と一七九で減歩率が異なるのは、従前地の正面路線価を国道一六五号線としたか否かによるところであるが、瓦口一七九は全くの袋地で畦道しかなく国道に接していないのに瓦口一四七は右土地とほぼ同位置でしかも幅員2.7メートルの道路に接している(乙四)。したがって、瓦口一四七に対する従前地の評価が適切にされたものとはいい難く、右評価に基づく地積の割当も適切に行われたということはできない。

(2)  減歩率について

原告太平は従前地を現に農地として使用しており、仮換地も農地として使用継続する予定である(甲二六、検甲二二)ところ、減歩率が約三〇パーセントであるから、原告太平にかなりの負担を強いることとなる。

(3)  以上のとおり、右仮換地指定は照応の原則に反し違法というべきである。

四  黙示の同意について

被告は、原告太平、同禎則が、各仮換地指定につき黙示に同意していた旨主張する。

原告太平及び同禎則は土地区画整理審議会の委員であり、被告は、昭和六二年三月一四日に右審議会において換地予定図を各委員に示して全体の立案を説明して、本件仮換地指定案につき全員一致の承諾を得ていることが認められる(証人梅田善久第一一回口頭弁論供述一二丁)。しかし、右審議会においては、右議案の検討がされたのは短時間であり、しかも、個々の仮換地ごとにではなく、各委員が自分の件につき意見を述べることを出来るだけ留保して、全体の案として公平かどうかを検討するとの方針の下に議論されたことが認められる(同第一二回口頭弁論供述二丁)から、そのことで本件仮換地指定について、右原告らの同意があったということはできない。

第四  結論

以上の次第で、原告真井、同禎則、同龍司及び同太平の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告成和の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官前川鉄郎 裁判官井上哲男 裁判官近田正晴)

別紙物件目録〈省略〉

図面一、二〈省略〉

別表1〜9〈省略〉

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